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人権総論

Section3 人権総論

ポイント

1 人権とは

・憲法の人権規定は、原則として国又は公共団体の統治行動に対するものであって、私人相互の関係を直接規律するものではない。
・私人間の行為については、憲法の人権規定の趣旨を私法の一般条項に読み込み、間接的に規律するのが、判例である。

2 外国人・法人の人権

・憲法の人権規定は、性質上可能な限り、外国人にも保障が及ぶ。
・外国人にも政治活動の自由が保障されているが、わが国の政治的意思決定に影響を及ぼすような政治活動の自由までは保障されていない。
・憲法は、外国人に選挙権を保障していない。ただし、法律で、永住者などに地方選挙の選挙を付与することは禁止されていない。
・外国人が、一時的に海外旅行のため出国し、再入国する自由は認められていない。
・社会保障上の施策において自国民を優先的に扱うことも許される。
・憲法の人権規定は、性質上可能な限り、法人にも適用される。

3 人権の制約

・人権は、侵すことのできない永久の権利であるが、公共の福祉による制約を受ける。
・公務員の政治的行為や労働基本権の制限は、憲法に違反しない・。
・刑事施設内の規律や秩序を維持し、逃亡を防止するために、収容されている者の人権を制限することが認められている。

 

1-3-1人権とは何か

1自然権

 日本国憲法は、立憲的意味の憲法であり、人権の保障こそが、日本国憲法の目的です。そのため、第3章に詳細な人権規定を置いています。
 人権(基本的人権)というのは、人間の尊厳の理念に基づいて当然認められるべき基本的な生活上の利益であって、憲法が保障しているのです。日本国憲法によって保障されている人権は、自然権であると解されています。自然権というのは、人間が生まれてながらにして持つ固有の権利のことです。

2人権の対国家性

 憲法学において、人権は、原則として国家権力(公権力)による侵害から保護されるべきものとされています。これを人権の対国家性といいます。
 そのため、判例は、憲法の人権規定は、原則として国又は公共団体の統治行動に対するものであって、私人相互の関係を直接規律するものではないといっています。憲法を私人間に直接適用することは、私的自治(シテキジチ)の原則に反し、また、対国家性という人権の本質にも抵触するからです。

 

判例チェック
□憲法19条、14条の規定は、国又は公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由や平等を保障する目的に出たもので、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない(三菱樹脂事件/最大判昭48・12・12)。

 

3人権の私人間効力

 人権の対国家性から、私人による人権侵害的行為があっても、憲法の人権規定は直接適用されないのが原則です。しかし、今日では、巨大な車気的権力を持つ私的団体が存在し、その人権侵害的行為を適切に処理する必要があります。
 そこで、判例・多数説は、憲法の人権規定の趣旨を私法の一般条項に読み込み、人権保障の精神にそぐわない私人の行為を公序良俗違反の為無効であるとしたりして、間接的に私人間の行為を規律しようとしています(間接適用説)。例えば、判例は、男子55歳、女子50歳を定年とする女子の若年定年制を定めた就業規則を性別のみによる不合理な差別であって、民法90条により無効だといっています。

 

判例チェック
□就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、専ら女子であることのみを理由として差別したことに帰着し、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効である(日産自動車事件/最判昭56・3・24)

 

1-3-2外国人・法人の人権

1外国人の人権
(1)外国人の人権享有主体性

 憲法第3章の表題は「国民の権利及び義務」となっており、憲法の人権規定が適用されるのは、日本国民だけのように見えます。
 しかし、判例は、憲法第3章の人権規定は、性質上日本国民を対象とするものを除き、在留外国人にも等しく及ぶといっています。不法入国の外国人であっても、わが国に在留する外国人には、性質上可能な限り、人権規定が適用されるというのです。人権は、人間が生まれながらにして持つ固有の権利であり、また、憲法は、国際協調主義を採用しているからです。

 

判例チェック
□憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としているものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶ(マクリーン事/最大判昭53・10・4)。
不法入国の外国人といえども、日本に在住する限り、その基本的人権及び一般私権は保護されなければならない(最判昭25・12・28)。

 

(2)入国・再入国の自由

 外国人には、わが国に入国する自由は保障されておらず、在留する権利も保障されていないというのが、判例です。国際法上、入国を認めるかどうかは、その国が自由に決定できるとされているからです。
 また、判例は、わが国に在留資格のある外国人であっても、外国に一時旅行し、再入国する自由は、保障されているないといっています。

 

判例チェック
□憲法上、外国人は、わが国に入国する自由を保障されていないし、在留の権利ないし引き続き在留することを要求し得る権利を保障されていない(マクリーン事件/最大判昭53・10・4)。
わが国に在留する外国人は、憲法上、外国へ一時旅行する自由を保障されていない以上、外国人の再入国の自由は、憲法22条により保障されない(森永キャサリーン事件/最判平4・11・16)。

 

(3)政治活動の自由

 政治活動の自由については、わが国の政治的意思決定またはその実施に影響を及ぼす活動など、外国人の地位から考え相当でないものを除き、外国人にも保障されるというのが判例です。

 

判例チェック
□政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位に鑑みこれを認めることが相当でないものを除き、その保障がわが国に在留する外国人に及ぶ(マクリーン事件/最大判昭53・10・4)。

 

(4)選挙権

 国政選挙においても、地方公共団体の選挙においても、国民主権の原理に基づき、外国人に選挙権は保障されていないというのが、判例です。ただし、判例は、地方公共団体の選挙について、法律で永住外国人等に選挙権を付与することは、法律上禁止されていないとなっています。

 

判例チェック
□公務員を選定罷免する権利を保障した憲法15条1項は、権利の性質上日本国民のみをその対象とし、同規定による権利の保障は、わが国に在留する外国人には及ばない(最判平7・2・28)。
□わが国に在留する外国人のうちでも、永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に密接な関係をもつに至ったと認められる者について、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、法律をもって地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではない(最判平7・2・28

 

(5)公務就任権

 判例は、公権力の行使に当たったり、普通地方公共団体の重要な施策に関する決定を行ったり、又は、これらに参賀したりする地方公務員には、外国人は就任できないといっています。国民主権の原理により、国及び普通地方公共団体の統治の在り方について、国民が最終的な責任を負うべきだからです。
 また、地方公共団体が、職員に採用した在留外国人に対して、合理的な理由に基づき、日本国民と異なる処遇をしても、憲法に違反しないというのが判例です。

(6)社会権

 判例は、社会保障上の施策において自国民を在留外国人より優先的に扱ってよく、外国人に障害福祉年金を支給しなくても、憲法25条に違反しないといっています。

 

判例チェック
□社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては、国は、特別の条約が存しない限り、その政治的判断によりこれを決定することができるのであり、その限られた財源の下で福祉的給付を行うにあたり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも許される(塩見訴訟/最判平1・3・2)。

 

2法人の人権

 憲法第3章の人権規定は、性質上可能な限り、法人にも適用されるというのが、判例です。そして、判例は、法人である会社の政治的行為の自由を認め、政治資金の寄付もその一環として許されるといっています。
 これに対して、公的な団体であり、強制加入団体である税理士会については、多数決原理により政治献金を決定し、会員に協力を義務付けることはできないというのが判例です。強制加入団体であり、さまざまな思想・信条や主義・主張を持つ者の存在が予定されているから、政治献金を行うか否かは、会員各人が自主的に決定すべきであるというのです。ただし、政治献金ではなく、他の団体の復興支援金であれば、会員から特別負担金を徴収できると判例はいっています。

 

判例チェック
□憲法第3章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能な限り、内国の法人にも適用されるのであるから、会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進し、または反対するなどの政治的行為をなす自由を有する(八幡製鉄事件/最大判昭45・6・24)。

 

1-3-3人権の制約

1公共の福祉による制約

 人権は「侵すことのできない永久の権利」とされています(11条、97条)。しかし、人権は、全く無制約のものではありません。公共の福祉による制約を受けます(12条、13条)。人権には、他社の利益を守るための制約が内在しており、憲法12条、13条の「公共の福祉」は、その内在的制約の根拠規定であるというのが、多くの学者の考え方です。

2公務員の人権制約
(1)政治活動の自由の制限

 現行法上、公務員の政治活動の自由が制限されていることについて、判例は、行政の中立的運営とそれに対する国民の信頼の確保という正当な目的と合理的関連性があり、制限によって得られる利益と失われる利益との均衡が取れているから、憲法に違反しないといっています。

 

判例チェック
□公務員の政治的中立性を損なう恐れのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむ得ない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところである。合理的で必要やむ得ない限度にとどまるものか否かを判断するに当たっては、禁止の目的、この目的と禁止される政治的行為との関連性、政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益と均衡の3点から検討することが必要である(猿払事件/最大判昭49・11・6)。

 

(2)労働基本権の制限

 また、判例は、公務員の地位の特殊性と職務の公共性から、公務員の労働基本権を制限しないと、国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼす恐れがあるとして、制限を是認しています。

3刑事施設収容者(在監者)の人権制約

 刑事施設内の規律や秩序を維持し、逃亡を防止するため、刑事施設収容者(在監者)の人権を制限することが認められています。例えば、判例は、喫煙を禁止したり、閲読の自由に一定の制限を加えたりしても、憲法に違反しないといっています。

 

判例チェック
□未決拘留により監獄に拘禁されている者の新聞紙、図書等の閲読の自由についても、逃亡及び罪証隠滅の防止という拘留の目的のためのほか、監獄内の規律及び秩序の維持の為に必要とされる場合にも、一定の制限を加えられることはやむを得ない(よど号事件新聞記事抹消事件/最大判昭58・6・22)。

 

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