Section9 司法
<ポイント>
1 司法権
・司法権は、最高裁判所と下級裁判所に帰属する。
・家庭裁判所は、憲法が設置を禁止している特別裁判所ではない。
・行政機関門、前審としてなら、裁判を行うことができる。
・裁判官は、独立して職権を行使でき、法以外の何ものにも拘束されない。
・学術的・芸術的・技術的な事項や宗教上の教義に関する争いは、司法審査の対象にならない。
・大学の単位授与行為や政党の党員に対する処分は、司法審査の対象にならない。
・衆議院の解散の有効無効の審査は、裁判所の権限の外にある。
2 違憲審査権
・違憲審査権は、司法権の一環として具体的な争訟事件の中でそれに付随して行使すべきである。
・下級裁判所にも、違憲審査権がある。
・裁判、立法不作為、条約も、違憲審査の対象となる。
3 裁判官
・最高裁判所の長たる裁判官は、内閣の指名に基づき、天皇が任命し、他の裁判官は、内閣が任命する。
・最高裁判所の裁判官は、国民審査に付される。
・下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿から、内閣が任命する。
・裁判官には、定年がある。
・裁判官は、定期に相当額の報酬を受け、在任中、減額されない。
1-9-1 司法権
1 司法権の帰属
(1)最高裁判所と下級裁判所
司法権というのは、具体的な争訟(争い・揉め事)に法を適用して裁定する国家作用に関する権能です。民事事件や刑事事件だけでなく、行政事件の裁判権も、司法権に含まれます。
司法権は、最高裁判所と下級裁判所に帰属します(76条)。下級裁判所というのは、高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所のことです(裁判所法2条)。
(2)特別裁判所の設置の禁止
特別裁判所のせっちは、禁止されています(76条)。特別裁判所というのは、通常の裁判所の系列に属さない裁判所のことです。代表例は、戦前の軍法会議です。
家庭裁判所は、通常の裁判所の系列に属しますから、特別裁判所ではありません。これに対して、弾劾裁判所は、特別裁判所に当たりますが、憲法が認めた例外として許容されています。
(3)行政機関による裁判
行政機関が、終審として裁判を行うことはできません(76条)。しかし、行政機関も前審として準司法的手続により裁定を行うことはできます。行政機関が持っている専門的知識や経験を活用するのが合理的だからです。
2 司法権の独立
(1)裁判官の職権の独立
外部からの干渉を排除して公正な裁判を行うために、司法権の独立が保障されています。司法権の独立の確信部分は、裁判官の職権の独立です。憲法76条3項は、裁判官の職権の独立を宣言し、法以外の何ものにも拘束されないと定めています。
(2)司法府の独立と規則制定権
裁判官の職権の独立を強化するために、司法府が他の国家機関から独立していることも求められています。
そして、裁判所の自主独立性を確保するために、最高裁判所に規則制定権が認められています(77条)。最高裁判所は、訴訟手続などに関して自主的に最高裁判所規則という名の法を作ることができるのです。
(3)裁判官の身分保障
憲法78条は、裁判官の罷免事由を、@裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合と、A公の弾劾による場合に限定しています。そして、行政機関が裁判官の懲戒処分を行うことを禁じています。裁判官の職権の独立を側面から強化するために、裁判官の身分を保障しようというのです。
また、公正な裁判を実現するために、裁判官はすべて、定期に報酬を受け、在任中それが減額されないことが保障されています(79条、80条)。
3 司法件の限界
(1)事件性の要件
具体的な争訟が存在しなければ、司法権を発動することはできません。これを事件性の要件といいます。具体的な争訟というのは、具体的な権利義務に関する争いであって、法の適用による終局的解決に適したものです。ですから、具体的な権利義務に関する争いであっても、法の適用による終局的解決に適したものでない場合は、司法審査の対象になりません。
例えば、学術的・芸術的・技術的な事項や宗教上の教義に関する争いは、法の適用による終局的解決に適したものではありません。そのため、これらは司法審査の対象になりません。
判例チェック
□本件訴訟は、具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争の形式をとっており、信仰の対象の価値または宗教上の教義に関する争いは、前提問題にとどまるとされているが、それは、本件訴訟の帰趨を左右する必要不可欠のものであり、その判断に関するものが、当事者の主張立証の核心になっているから、結局、本件訴訟は、その実質において法令の適用による解決が不可能なものである(板まんだら事件/最判昭56・4・7)。
(2)部分社会の法理
一般市民社会とは別個の自立的な法規範を持つ特殊な部分社会の内部問題は、その自主的・自立的な解決に委ねるのが適当であって、司法審査の対象にはならないとする考え方を部分社会の法理といいます。判例は、これを採用し、大学の単位授与行為や政党の党員に対する除名処分は、部分社会の内部問題であり、司法審査は及ばないといっています。また、判例は、地方議会の議員の出席停止処分も、内部問題であり、司法審査は及ばないといっています。しかし、議員の除名については、議員の身分の喪失に関わる重大問題であり、内部問題にとどまらないから、司法審査が及ぶというのが、判例です。
判例チェック
□大学は、設置目的を達成するために必要な事項を学則等で定め、実施する自立的・包括的な権能を持っており、一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成している。部分社会の内部問題であって、一般市民社会とは直接の関係のない問題は、司法審査の対象から除かれる。単位の授与は、一般市民社会と直接の関係はなく、大学の自主的破談に委ねられるものであるから、司法審査の対象にはならない(富山大学単位不認定事件/最判昭52・3・15)。
(3)議院の自律権
議院の自律権に関する事項については、議院の自主性を尊重するべきであり、裁判所が立ち入るべきではないと考えられています。そのため、議事手続について、判例は、両議院の自主性を尊重すべきであり、議事手続の有効無効を判断すべきではないといっています。
(4)裁量行為
国会の立法裁量や行政機関の自由裁量に属する事項についても、裁判所は立ち入るべきではないと考えられています。ただし、判例は、裁量の範囲を著しく逸脱した場合や裁量権を濫用した場合には、司法審査の対象になるといっています。
(5)統治行為
国家の統治の基本に関わる高度の政治性を有する行為であって、法的判断が可能であっても、司法審査の対象から除外されるものを統治行為といいます。
判例は、内在的制約として、統治行為を認め、直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為は、裁判所の審査の外にあり、政府・国会等の政治部門の判断に委ねられ、最終的には国民の政治判断に委ねられているといっています。そして、判例は、衆議院の解散を統治行為といっています。
判例チェック
□直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為は、裁判所の審査の外にあり、政府・国会等の政治部門の判断に委ねられ、最終的には国民の政治判断に委ねられている。衆議院の解散は、極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為であって、その有効無効の審査は、裁判所の権限の外にある(苫米地事件/最大判昭35・6・8)。
4 裁判の公開
判決は、必ず公開法定で行わなければなりません。そして、対審も、公開するのが原則です(82条)。裁判が公正に行われてることを保障するためです。
ただし、対審については、政治犯罪・出版に関する犯罪・憲法第3章で保障する国民の権利が問題となっている事件を除き、裁判官の全員一致で公の秩序または善良の風俗を害するおそれがあると決した場合には非公開とすることができます(82条)。
1-9-2 違憲審査権
1 違憲審査権とは何か
(1)付随的違憲審査制
憲法81条は、最高裁判所に違憲審査権を付与し、憲法の番人としています。憲法81条の違憲審査権について、判例は、司法権の一環として具体的な争訟事件の中でそれに付随して行使すべきであり、具体的な訴訟事件とは無関係に、法令の違憲審査を行うことは許されないといっています(付随的違憲審査制)。憲法81条が、司法の章に置かれているからです。
(2)下級裁判所の違憲審査権
憲法81条は、最高裁判所の違憲審査権についてのみ述べています。しかし、下級裁判所にも、違憲審査権があると考えられています。司法権は下級裁判所にも帰属するから、司法権の一環を成す違憲審査権も、下級裁判所に帰属するというわけです。ですから、要するに、憲法81条は、裁判所に違憲審査を付与し、裁判所を憲法の番人としたのです。
判例チェック
□裁判官が、具体的訴訟事件に法令を適用して裁判するに当たり、その法令が憲法に適合するか否かを判断することは、憲法によって裁判官に課せられた職務と職権であって、このことは最高裁判所の裁判官であると下級裁判所の裁判官であるとは問わない。憲法81条は、最高裁判所が違憲審査権を有する終審裁判所であることを明らかにした規定であって、下級裁判所が違憲審査権を有することを否定する趣旨のものではない(食糧管理法違反事件/最大判昭25・2・1)。
2 違憲審査の対象
(1)法律・命令・規則・処分
憲法81条は、違憲審査の対象として、法律・命令・規則・処分を挙げています。そして、地方議会が制定する条例も、その性格から法律に準じるものとして、違憲審査の対象になると解されています。また、裁判も、処分に含まれ、違憲審査の対象となるというのが、判例です。
(2)立法不作為
立法義務が憲法上明示され、または解釈上導き出せるのに、相当期間を経過しても、その立法義務が果たされない場合には、憲法に違反すると解されています。そして、この立法不作為も、違憲審査の対象になると解されています。
(3)条約
条約が国内法としての効力を持つ場合、憲法が、条約に優越するというのが、多くの学者の考えです。条約という形での憲法の改正を阻止する必要があるからです。
そして、置くの学者は、憲法が条約に優越することを前提に、条約に対する違憲審査を認めています。判例も、条約に対する違憲審査の可能性を認めています。
判例チェック
□日米安全保障条約が違憲なりや否やの法的判断は、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、従って一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものである(砂川事件/最大判昭34・12・16)。
3 違憲判決の効力
最高裁判所が問題とされた法令そのものを違憲と宣告する判決を行った場合、その法令は、どうなるのでしょうか。
多くの学者は、違憲判決の効力が及ぶのは、その事件であると考えています。違憲とされた法令は、その事件に適用されないだけで、依然として効力を持ち続けるというのです(個別的効力説)。その事件を解決できれば、それで十分であり、違憲判決によって、法令が効力を失うとすると、裁判所に一種の消極的立法作用を認めることになり、国会を唯一の立法機関とする憲法41条に反することになるからです。
1-9-3 裁判官
1 最高裁判所の裁判官
(1)最高裁判所の構成
最高裁判所は、長たる裁判官とその他の裁判官で構成されます(79条)。その他の裁判官の員数は、裁判所法が14人と定めています。
長たる裁判官は、内閣の指名に基づき、天皇が任命し(6条)、その他の裁判官は、内閣が任命します(79条)。
(2)国民審査
最高裁判所の裁判官は、任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際に、国民審査に付されます。国民審査において、投票者お多数が裁判官の罷免を可とした場合、その裁判官は、罷免されます。国民審査は、1回限りではなく、10年を経過する毎に、初めて行われる衆議院総選挙の際に実施されます(79条)。最高裁判所の地位と権限の重要性に鑑み、その裁判官お選任について民主的にコントロールを加え、四方の独善化を防止しようというわけです。
(3)定年と報酬
最高裁判所の裁判官にも、定年があります。最高裁判所の裁判官も、法律の定める年齢に達した時に退官するのです(79条)。裁判所法は、最高裁判所裁判官の定年を70歳と定めています。
また、最高裁判所の裁判官は、定期に相当額の報酬を受け、在任中、減額できないことが明定されています(79条)。
2 下級裁判所の裁判官
(1)任命・指名
下級裁判所の裁判官を任命するのは、内閣です。内閣は、最高裁判所の指名した者の名簿に基づき、下級裁判所の裁判官を任命します(80条)。内閣に任命権があり、最高裁に指名権があるというわけです。
(2)任期と定年
下級裁判所の裁判官の任期は、10年です。再任も可能ですが、法律で定年が定められており、その年齢になると退官します(80条)。裁判所法は、簡易裁判所の裁判官の定年を70歳、他の裁判官の定年を65歳と定めています。
(3)報酬
下級裁判所の裁判官も、定期に相当額の報酬を受け、在任中、減額できないことが明定されています(80条)。
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